★HABITAT:家にありたき木は・・・★

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No.010 家にありたき木は・・・(05/12,1999) 川口晋

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 シンボルツリー----ちょと馴染みのないことばだが、エクステリアではよく使われるようだ。そのまま訳すと「象徴の木」だが、こう言っても「何の象徴だ」だかよくわからない。

 難しいことはおいておいて、ともかくシンボルツリーといったら、その家の敷地に目立つように植えられた木で、その家のメインの木ぐらいに考えておけばいいだろう。目立つように植えるのだから、その家の持ち主の好み・趣味が反映されている、と言ってもいい。だからそういう意味で、主人のセンスの「象徴」でもある木、とここでは勝手に解釈してしまう。

 このシンボルツリーで思い浮かべるのは、『徒然草』の「家にありたき木は」の段。この第139段は「家にありたき木は、松、桜」で始まる。吉田兼好がどういうことを言っているかを要約すると…

 ----家にあって欲しい木といえばまずは、松と桜。松なら五葉、桜なら一重。梅もいいし、柳がまたいい。紅葉ばかりではなく若葉もきれいな楓も素晴らしいし、橘、桂もこれまたいい。草は、山吹、藤、カキツバタ…(以下省略)など生け垣にゴテゴテと茂らないのがいい。中国風の見慣れぬものには魅力を感じない。なくてもいい----

 なんだか、単に自分の好みを言っているだけに聞こえるが、ここでの主張をずばりいうと「基本が大事、そしてシンプルが一番。決して奇をてらうな」である。

 最初にあがっている松は今でもよく門のそばに植えられている。なぜ松なのか。日本古来の造園から「出迎えの松」「見送りの松」として、門のあたりに松を植えるならわしがあるという。一番わかりやすいのは、「門松」というかたちで正月に登場する松だろう。出迎える、見送るというのだから、松を擬人化しているのであるが、それがどういう理由からなのかはわからない。ともかく、客人を出迎え見送るのに値する品のある木、ということなのだろう。

 二番目にあげられている桜は「一重」がいいと言っている。兼行は「八重桜は異様のものなり。いとこちたくねぢけたり。植えずともありなん」と、八重桜みたいな趣味の悪いもの植えなくてもいい、と言う。「八重桜は奈良の都にのみありけるを、このごろ世に多くなり侍るなる」、つまり、中国スタイルの平城京にだけ植えてあった八重桜が最近京都でも見かけるようになったというわけで、そんなの京の都にあわないよ、ということである。

 単に、王朝美学が粋なんだぞ、と言っているように聞こえるが、この「ゴテゴテは×、スッキリが○」という美意識はよくわかる。実際、まるで花の重さで枝がたわんでいるんじゃないかと思うようなゴージャスな八重桜より、一重のソメイヨシノの方が和風の家にはマッチする、というのは説得力がある(まあ好みの問題だけど)。さらに、奈良の都にあるものを京の都にもってきたってマッチしないという指摘には、周囲とのバランスを配慮する景観の思想も透けて見える。

 さて兼行はこの段の最後で次のように結論している。

 「おほかた、何も珍しくありがたきものは、よからぬ人のもて興ずるものなり。さやうのもの、なくてありなん」(だいたい、珍しくてちょっとそこらにないというものは、ろくでもない人が面白がるものだ。そういうものは、なくてもいい)

 今も昔も変わらないなと思う。それを本当に自分が好きがどうか、さらに自分(の家、および周囲)にマッチしているか、という判断の前に、希少価値とか、あるいは「目立つから」「最近の流行」とかが優先することが間々ある、ということ。これはファッションの話に置き換えるとわかりやすい。

 あなたの住まいに「ありたき木」はどんな木だろう。■

 

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